クローン病とは
クローン病は、口から肛門までの全ての消化管の、どの部位にも炎症や潰瘍を発症する病気です。発症年齢のピークは男性が20〜24歳、女性が15〜19歳といわれています。男性と女性の患者比は2:1で 、男性の方がかかりやすい病気です。小腸と大腸を中心として特に小腸末端部が好発部位とされ、非連続性の病変(病変と病変の間に正常部分が存在すること)を特徴とします。それらの病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じます。
病気の詳細なメカニズムは現在も研究段階で、根治に導く治療法がないため厚生労働省の特定疾患(難病)に指定され医療費の補助が受けられます。
クローン病の原因
クローン病の原因は、遺伝的な要因や環境要因、腸内細菌叢などが複雑に絡み合い、異常な免疫応答が消化管で起こる事が原因と考えられています。
発症率に人種差が認められること、家系内発症する例が認められることなどから、これまで発症に関与する遺伝子の研究が進められてきました。自然免疫系に関わる遺伝子が数多く見つかってきていることから、自然免疫系の異常がクローン病発症に深く関わっていることが示唆されています。
環境因子としては、喫煙がクローン病発症のリスクとなり得ることが知られています。また、衛生環境や食生活の影響も指摘されています。世界的にみても、早くから近代化が進んだヨーロッパや北米で患者数が多く認められます。日本や中国といったアジアの国においても、西洋の食文化を取り入れるようになって以降、患者数の増加が報告されています。
クローン病の症状
クローン病の症状は、炎症を起こした部位によって異なり、小腸と大腸の発生頻度が高いといわれています。主な症状は、下痢、血便、腹痛、発熱、体重減少、全身倦怠感、貧血などです。
炎症が小腸に起こっている場合は血便や下痢を起こさず、狭窄による便秘・腸閉塞を起こすことがあり、診断が難しいケースがあります。
炎症が直腸・肛門部に起こった場合には、肛門周囲膿瘍やそれによる痔ろうなどの肛門疾患を合併することがあります。肛門周囲膿瘍や痔ろうで受診してクローン病があることがわかるケースもあります。また、消化管以外に、関節炎や皮疹などを生じることもあります。
クローン病の検査と診断
まずは血液検査で貧血や炎症の程度を調べます。次に小腸や大腸などの状態を調べるために画像検査を行います。X線検査やCT検査などを行うこともありますが、大腸の内部を詳しく観察するために大腸カメラを行うことが一般的です。また、クローン病の確定診断のためには内視鏡検査で病変部の一部を採取し、顕微鏡で組織の状態を詳しく調べる病理検査を行う必要があります。
通常の大腸カメラで観察することができない小腸に病変があることが疑われるときは、カプセル型の内視鏡を用いたり、小腸内視鏡を使用することがあります。
クローン病の治療
クローン病の治療には、薬物療法や栄養療法などの内科的治療と手術などの外科的治療があります。
いまだ完治にいたる治療法は見つかっていないため、問題なく日常生活を送るために、症状のコントロールやQOL (生活の質) の向上を目的とした治療が行われます。
病変の部位や炎症の程度、合併症の有無などに応じて、薬物療法、栄養療法を組み合わせ、また必要であれば手術による治療が選択されます。
薬物療法も潰瘍性大腸炎と同様に、5‐アミノサリチル酸製剤(ペンタサなど)を中心とした処方を行い、状態に合わせて免疫調節薬、副腎皮質ステロイド薬なども使用します。潰瘍性大腸炎と大きく違うのは、炎症が消化管の広範囲に及ぶことがあって栄養状態が悪化する可能性が高いことです。そのため、成分栄養剤(エレンタール)の液体食などを用いることがあります。成分栄養剤はアミノ酸が主体で炎症の原因となる脂肪などの食事抗原を含まないので、腸管の安静や栄養状態改善にも有効です。状態が悪い場合には静脈栄養が必要になることもあります。
最近は、レミケードやヒュミラ、シンポニーなどの生物学的製剤による治療も行われるようになり、治療効果を得やすくなってきています。ただし、小腸が炎症によって狭窄や瘻孔を生じて腸閉塞や腹腔内膿瘍を形成してしまった場合には手術が必要になります。